中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
北京の銀行でパスポート番号を変更する

 6月に北京に行ったとき、私には重大な案件があった。

 それは、10年パスポートの期限切れにともない、北京の銀行に登録している旧パスポートの番号を新パスポートの番号に変更する、ということである。

 

 たかがそれだけ、といえばそうなのだが、実は10年前、やはりパスポートの切り替えで番号の変更した際は、本当に大変だった。

 

 というのも、当時、私の通帳名義は「田中奈美」と漢字で登録されていたのだが、本来はローマ字で登録する必要があったことが、パスポートを切り替える段階になって発覚。 

 「田中奈美」のままでは登録しているパスポートの番号を切り替えられず、現状の口座を一度閉じて、新たにつくりなおさなければならないということだった。

 が、そうすると引き落とし口座や、オンラインの支払い用に登録している口座などを全部変更する必要があり、そうとうすったもんだした。

 

 結局、窓口責任者のおばさんが出てきて、あれこれと知恵をひねり出してうまくやってくれた。

 

 さて、あれから10年。今回、口座名義はローマ字に変更済みだが、そもそも、中国の銀行は基本的に国民総ナンバーの身分証番号で口座管理していて、番号を変更するという手続きはあまり一般的ではない。そして一般的ではない手続きにはトラブルがつきものである。

 

 事前に国際電話をして、とにかく銀行カードと新旧のパスポートをもって最寄りの窓口に行けばOKということを確認し、万全の構えで北京の銀行に赴いた。

 ところが、である。

 窓口で、端末の操作をしていた係員のお姉さんの手がとまった。

 そして、私の銀行カードには紐づけされた定期預金の口座があり、その通帳をもってこないと、パスポート番号の変更ができないとのたまう。

 

 定期預金はとっくのむかしに解約したはずだが、どうやら当時の窓口係が預金をただ空にしただけで、解約処理をしていなかったらしい。

 

 口座はカラのはずだから、その場で解約すれば、と思ったものの、通帳がないと、まず通帳の紛失処理をして、それから解約手続きをすることになるので1週間以上かかるとのこと。

 滞在日数は4日しかないので、そんなに待てない。

 

 ということで再びすったもんだしていると、窓口の責任者らしい年配女性が「どうかしましたか?」とやってきた。

 チャキチャキの北京のおばさんで、今回も頼りになりそうな人物である。

 彼女に事情を話すと、やはりまず「新しい口座をつくりなおしたら」と提案があった。

 

 しかし今回の問題は、これがWECHATペイに紐づけしている口座だ、ということである。

 現在、一つの銀行で個人が開ける普通口座は一つときまっている。なので、WECHATペイでは、同一銀行の同一名義で同一タイプの別口座番号に切り替える、ということはできないはずである。

 そしてWECHATペイが使えないと日常生活に支障をきたす。

 

 では、銀行側でWECHATペイに登録した口座を変更できるのかときけば、「できません」。

 自分でWECHATペイに電話をして事情を説明せよというのだが、それで話が通るとは到底思えない。

 

 途方に暮れていると、責任者の女性いわく、「大丈夫! 中国は同姓同名が多いから、同姓同名のいとこの口座に切り替えるといえばいいわ! パスポート番号も違うからそれで通るはず!」

 それはなかなかの妙案だが、石橋叩いて渡るタイプの日本人メンタル的には「もしそれでうまくいかなかったら?」という心配がむくむくとわいてくる。

 

 「それより今、この場で、、ちゃちゃっとパスポート番号変更してもらえると助かるんですが」と返した私に、「あなた、中国語は通じるのに、なんで話が通じないの?!」と、キレる責任者の女性。

 

 結局、ごねたところで、帰国後、定期の通帳を探して出直すか、通帳の紛失届を出して次回手続きをするか、新しく口座を作り直すの三択しかないという事実はかわりそうにない。

 実は、おぼろげながら、北京で使った通帳は捨てずに保管していた記憶があった。保管場所ををあされば出てくる気がする。

 

 「帰国してから通帳探してみます」

 責任者の女性にそうつげると、「それがいいわ!」と、笑顔になった彼女。

 「WECHATペイの口座変更はやっぱり面倒だから」。

 さっきのいとこの口座案は何だったのか。

 

 ということで、振出しにもどった変更手続き。

 後日、帰国してから定期の通帳を探したところ、幸い見つけることができた。もっともこれで、次回は手続きができるのか、いまから兢々としている。

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変貌する北京のビール文化

 ここ最近、北京にいくたびに、ローカルスーパーのビールコーナーが、日本のコンビニ並みに賑わっていることに目をみはる。

 一昔前は燕京ビール、北京ビールの地元ビールに、青島ビールなど国産ビールがちらほらという程度。しかも、地元ビールは1瓶3元(1元=約16円)という格安ぶりだった。

 数年前には、外資系スーパーなどでコロナやバドワイザーのような海外ビールが並びはじめていたが、それもあまりたくさんの種類はなかった。

 

 それがいまや超ローカルのスーパーにも、10元を超えるドイツ系ベルギー系のビールが並ぶようになり、安くてなんぼだった国内メーカーまで高級路線のビールをつくるようになっている。

 

 実は、経済成長の鈍化で格安ビール市場が行き詰り、各社高級路線を打ち出しはじめているという。北京商報の報道によれば、2017年度の輸入ビールは70万キロリットルで前年比10%増。2017年度の輸入ワインが78.7万キロリットルなので、いつの間にか輸入ワインに迫る勢いである。

 しかし、高級市場の奪い合いで競争が激化。地域ごとのマーケティングに基づいた戦略が要になっていくだろうという話だった。

 

 思い返せば、北京のビールは庶民文化の象徴みたいなものだった。

 夏場、シャツをたくしあげ太鼓腹をむき出しにしたおっさんたちが、路上に広げられたテーブルをとりかこみ、ワイワイガヤガヤとビールをラッパのみしていた。

 その風景はいまも健在ではあるけれど、ビールはもはや安いだけのものではなくなった。

 

 北京ではビールにかぎらず、庶民文化が、中間層文化にとってかわり、どんどん希薄になっていくようだ。それだけ生活が向上したということかもしれないが、高いもの=よいもの、安いもの=質の悪いものというイメージが強烈で、それが生み出す中間層文化は、安くて心地よいものまで排除する。

 いつか地元の格安ビールがホッピーみたいに復活し、豊かな庶民文化として見直されることはあるだろうか。ローカルスーパーの高級化するビールに一抹の寂しさを覚えるのである。

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中国で、スマホ決済が爆発的に進んだことより驚嘆すること。

 先日、北京にいくと、もはやいたるところでスマホ決済が日常になっていた。

 ホテルでビールを購入し、手元にあった小銭の「分」(1元=10角=100分)をかき集めて支払いをしようとしたら、受付の不機嫌そうなお姉さんに「分は使うところがないから受け取れない、小銭がないならスマホでどうぞ」と言われるしまつ。

 

 スマホ決済に今一つ慣れず、小銭をちゃちゃっと出す方が早いのだが、レジはどこもスマホでの支払いがメインなので、おつりをもらうのに逆にモタモタしてしまう。

 支払方法は、スマホで店が提示するQRコードを読むときと、こちらがQRコードを提示してそれを店側が読んで決済するときがあり、たいていまごつく。

 

 そして私がまごついていることに、店員がまごつき、続いて「ナニコノヒト」的視線を送られる。どうやらおそらく私は、普通語が超絶へたくそなおのぼりさんに見られているのではないかと思う。

 

 吉野家中華版の和合谷という丼飯チェーン店でも、レジでスマホ決済をどうやるのかを聞いたら、店員に「は?」という顔をされた。

 幸い、隣で注文が出てくるのを待っていた小学生らしき男の子が、「ここをこうしてこうやるんだよ!」と教えてくれて事なきを得た。

 

 そんなこんなで何度か失敗を繰り返し、ようやく慣れてきたころ、地下鉄駅の自販機を使ってみる機会があった。

 私が北京で生活していた4年ほど前は、町に自販機はほぼ存在しなかった。なぜなら現金を盗られるからだ。

 

 それがいまではたいていの地下鉄駅に自販機が設置され、スマホで購入できるようになっている。おりしもその日はとても暑く、ノドはからから。通り沿いには売店がなく、ようやく見つけた自販機だった。

 

 でもやはり、はじめてのときは使い方がわからない。ひとまず、隣で買っているお姉さんを見て、慎重にイメージトレーニングをする。

 そしていざ、購入。スマホに決済完了の文字が出て、あとは自販機から商品が出てくるのを待つだけ。のはずが、数分待っても出てこない。

 

 乾ききった喉にヒリヒリとした痛みをおぼえながら、しばし呆然と立ち尽くす。それから購入方法の説明書きのところに「商品が出てこないときの問い合わせ番号」を発見した。

 電話口に出たサポートセンターのお兄さんは慣れた調子で、支払いが完了していること、商品が出ていないことをオンラインで確認すると、WECHATの公式サイトから返金請求する方法を教えてくれた。

 

 返金システムがきちんとあることに感動しつつ、返金請求するも、今度は画面が「請求処理中」で止まったままとなる。再度電話をすると、返金には2営業日ほどかかるという話である。

 しかしこれまでの中国経験で、支払ったお金が戻ってくることはほとんどなかった。今回もまた、なんやかんやで戻ってこないのではないか。そう思うと、別の自販機で、再度、購入する気になれず、結局、その日は約束していた中国人宅につくまで、渇きを耐え忍んだ。

 

 そして後日。WECHATが鳴ったので見ると、「返金が完了しました」の文字。確かに支払った分のお金が戻ってきていた。

 冷静に考えれば、そもそも商品が出てこないというのはどうか、と思うのだが、それ以上に、出てこなかった商品の返金をオンラインで完了するシステムが確立されていて、後日、本当に返金されるという現実に、改めてデジタル化する中国社会を体感した気がした。

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「格安」考

 某日、ネットをつらつら見ていたら、脳ドッグのLCCという文句が目に入った。

 すなわち、脳ドッグを2万円以下の格安で受けられるという。

 某IT大手のOBが脳ドッグに特化して始めた予防ビジネスで、予約から結果通知、さらには検査画像の確認にいたるまですべてネットで行えるようになっている。

 

 その紹介記事自体がステマっぽいし、院長の専門が循環器内科というのは少々ひっかかったが、いろいろコストダウンの努力をしていてこの価格、という話はあながちウソではなさそうだった。

 とりたてて悪いところもないけれど、この値段なら、ちょっと話のタネに受けてみようかなと、そんな気になった。

 

 そして、これが中国なら〜、と考えた。

 中国国内で、「格安」が成立するシーンはわりと限られると思う。

 

 スマホや家電、航空業界など、過当競争でしのぎをけずっている業界は、より大きな市場を獲得すべく、じゃんじゃん資金を投じて、いいものを安く提供する傾向があるけれど、多くの場合、安い=粗悪品(安心できないもの)であり、高い=よいもの(安心できてブランド価値が高いもの)的なイメージは根強い。

 そもそも、よいものは値段をあげても売れるので、一般に値段が釣りあがることが多いと感じる。

 

 ましてや、不信感が蔓延する中国の医療業界では、予防ビジネスとはいえ、「格安」商売が成り立つとはあまりイメージしにくい。

 

 ということで、東京で格安脳ドッグを受けてみた。所要時間は30分。ささっと超お手軽で、1週間ほどで結果の通知メールが届いた。

 そしてWEBのマイページに表示された結果は動脈瘤の疑いあり。ただし、現状ではクモ膜下出血の可能性は極めて低く、年に1度の検査を受けましょうという内容である。

 

 説明するのでご来院くださいと書かれていて、話を聞きにクリニックにおもむくと、医師は「疑い」なので動脈瘤とはかぎらないが、念のため3カ月後にもう1度受けたほうがよいとのたまう。ちなみにどこの部分の血管か聞いたところ、返ってきた答えが「脳の奥」。

 

 もしかしたら、そうしてリピート客をつくるというビジネスモデルなのかもしれない。

 不安商法といえばそうかもしれないが、本当に不安なら大きな病院できちんと検査をすればよいだけのことなので、とりたてて実害はない。

 

 これが中国なら、悪くないところを悪いと言われて不要な手術でがっぽりとられるとか、そこまでではなくても、あとからいろいろ追加検査されて請求されるかもしれない、などと妄想が膨らんでしまう。

 そう考えると、手軽にさくっと脳ドッグを受けられるサービスがあるのはありがたいことだといえるのではないだろうか。

 

 そして、日本で格安脳ドッグのようなビジネスが成り立つのは、監督体制がそれなりに機能しているというだけでなく、それだけ社会が成熟して安定しているということなのかもしれないと、そんなことを考えるのである。

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ジャック・マーとカンフーの世界

  先日、アリババのジャック・マー(馬雲)会長が早稲田大学の特別対談に来ていて話題になっていた。

 ジャック・マーといえば、世界が注目する中国の大企業家だが、そのマーが80年代から太極拳を習っていて、2009年には河南省温県陳家溝に伝わる陳式太極拳第十九代伝承者の王西安老師に師事し、カンフースターのジェット・リーらとともに太極拳文化を広める「太極禅」(カルチャースクールというかサロンというか)を運営、昨年11月に自身が主演のカンフーショートフィルム「功守道」を、太極拳文化PRの一環としてネット配信した、ということは、日本ではそれほど話題になっていなかったかもしれない。

 

 しかしこの「功守道」、中国での前評判はなかなか盛り上がっていた。

 なにしろ、総監督をジェット・リー、武術指導を「マトリックス」でアクション指導していたユエン・ウーピンや、懐かしのデブゴンことサモハンキンポーらがつとめ、出演者にはカンフーアクション映画には欠かせないドニー・イェンに呉京、タイのムエタイ俳優トニー・ジャーのほか、朝青龍や北京五輪ライトフライ級金メダリストの鄒市明まで登場し、しかもその中でジャック・マーが主役をはるというのである。

 

 何かの冗談かと半信半疑ながらもちょっと楽しみだったのは、マーが以前から、彼のビジネス哲学の背景には太極拳の思想があると語っていたからだ。

 「陰陽の考え方、いつ収めていつ放ち、いつ化(変化)し、いつ聚する(集める)かは企業管理と全く同じである」「太極拳の自ら攻めず、ごくわずかな力で大きなものを動かすという考え方は、ビジネスの理念にヒントをもたらす」などのマーの言葉が、メディアで伝えられていた。

 

 これは太極拳にかぎらず、中国武術全般にいえる思想だと思う。

 中国武術というと、派手なアクションをイメージするかもしれないが、本来の伝統武術は、中国古来の万物に対する深い哲学思想が根底にある。

 

 そして今、その伝統武術は風前の灯火状態だ。アクションやスポーツ競技、健康体操としてのカンフーではなく、本来の中国武術の思想や技術を深いレベル伝えられる老師は限られる。

 また、習得には時間がかかるし、本当に使えるようになるにはかなり難しい。加えて受け継ぐ側の若い世代が、伝統武術だけで食べていくのは非常に厳しく、現代風にアレンジしたり、一般受けするようなものにかえていかざるをえない。

 

 中国武術協会には中国武術を五輪種目に入れるという悲願がある。確かに五輪種目になればすそ野は広がるし、資金的にもメリットは大きいだろう。しかし、中国武術の醍醐味は、中華料理さながら各地各様、さらには各老師それぞれの味わいがあり、けして規範化されないところであったりもする。

 

 文化面では、流派によって無形文化財に指定されているものもあるのだが、その先生方いわく「あんなものは単なる称号、俺が死んだら消えてなくなるから無形というんだ」というくらいで、積極的な意義ある保護と伝承活動が行われている、という話は聞かない。

 

 そんななかにあって、ジャック・マーほど成功した企業家で、おそらく伝統武術にもよく触れていて、あれだけ頭のよい人が、陳式太極拳にかぎるとはいえ、伝統武術をPRするフィルムをかの錚々たるメンバーで制作したら、何かきっと面白いものができるのではないか、と思っていた。

 

 その結果、公開されたフィルムは、マーが陳式太極拳の華麗な身のこなしで、各スターたちを倒しまくったあげく、ラストはまさかの妄想オチという、なんともコメントのしようがない内容だった。

 

 随所に意味ありげな隠喩的シーンが挿入されているものの、よく意味がわからない。

 ガイジンだからわからないのかと思ったところ、中国メディアには「すみません、理解できたのは、エンドロールの出演者リストだけでした」というタイトルのコラムが掲載されたりして、ネット評価もふるわないようだった。

 これなら、ウォン・カーウァイ監督が「グランド・マスター」のメイキングで、中国各地の武術家を取材してまわったときのショートフィルムのほうがよほど味わい深かった。

 

 ということで、見なかったことにしてしまっていたのだが、先日、北京テレビを見ていたときのこと。

 大型京劇文化伝承番組「伝承中国」なるものが放映されていた。

 

 内容は、京劇界のスターをメインキャストに、女優や漫才など違う業界の若手スターが京劇を短期間で学び、最後に京劇界のお歴々の前で披露するというもので、日本でいえば、歌舞伎を市川海老蔵や尾上松也、松本幸四郎などが実力女優やタレントや芸人に教える、みたいな番組といえるだろうか。

 

 思えば、少し前まで、中国の伝統芸能がこんな風にバラエティ的にとりあげられることはなかった。そういう意味ではとても画期的だし、社会が伝統の継承的なことに関心をよせはじめているということなのかもしれない。

 

 ただその一方で、「伝承」の見せ方が、なんというか、バブリーで軽いのだ。

 学ぶ過程はあくまでバラエティだし、セットは大掛かりで豪華、スターたちは当然ながら、服も化粧もお金がかかってそうでみんなキラキラしている。

 

 結局、今どきの中国では、伝統にも、キラキラしさが求められるのだと思う。

 そうして目をひかなければ何も始まらないようなところがある。

 地道に黙々と続けていたら誰かが評価してくれる、なんてことは基本的にない。

 

 でも、とも思う。

 そのキラキラしい世界に、果たして未来はあるのだろうか。

 

 もしもいつか、ジャック・マーが太極拳をカンフースターたちのきらきらしさで飾り立てるのではなく、伝統の奥底にそっとスポットをあてるような映画をつくることがあったとしたら、現代社会における伝統武術の有り様も少し変わるのかもしれない。

 

「功守道」優酷(Youku)の独占配信で、2018年4月30日現在、再生回数1.9億回!

 

※以下、御案内です。

 今年2月に、私が日本でお世話になった武術家(で料理人)だった佐藤聖二先生の遺稿集が出版されました。

『佐藤聖二遺稿集 太気拳・意拳研究ノート』

 

 佐藤先生は、民国時代に意拳を創始した異才の武術家、王向斎に日本人として唯一師事した澤井健一先生(太気拳の創始者)の弟子で、80年代に単身、北京にわたり、澤井健一先生の兄弟子である姚宗勲先生に師事しました。

 本書は佐藤先生が53歳で亡くなられるまでの約5年半の研究ブログと北京時代のエピソードなどを記した原稿を収録したものです。

 先生の研究は太気拳・意拳にとどまらず、また多くの武術家の先生方と交流してこられました。

 私自身は本当にほんの少しの間、お世話になっただけなので、ご紹介できるような立場ではないのですが、それでも、佐藤先生の熱心な研究に触れたことで、中国武術がこれほど多様に満ち、奥深く、面白いものであるということを知ることができました。

 本書は、武術をやっていないと少々とっつきにくいかもしれませんが、先生の研究を通じて、中国の伝統武術の味わい深さに触れていただくことができればと思い、ここにご紹介いたしました。 

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中国的勝手のまき散らし、日本的不快のなすりつけ

 前回、北京に行ったとき、地下鉄の始発駅で並んでいると、小学校高学年くらいの男の子が横入りしてきた。一緒に母親らしい女性がいるが注意しない。ぱっとみたところ、品のよいやさしいお母さん風の女性だったので、なぜ、注意しないんだろうと不思議に思いながら、子供に「みんな並んでいるんだから並びなさいな」と言った。

 

 すると、子どもはくるりとこちらを向き、「どうせ始発で、並んでいる人も少ないんだから別にいいだろう」とまくしたてる。確かにそのとき並んでいたのは5〜6人だったが、みんな行儀よく2列に並んでいるのである。

 

 おもわずむかっとして、「そういうのを教養がないっていうんだよ」と言い返したところ、さらにヒートアップした早口でののしり始めた。

 もっともこちらはガイジンなので、ののしり言葉はよくわからないし、琴線には響かない。

 

 「そんなに言うなら、ゆずってあげるわ」と、前をあければ、男の子は素知らぬ顔で、一番前をじんどった。

 母親は何もいわず、一番後ろに並び、周りの大人も誰も何も言わなかった。

 そして電車が来ると、一番のりで車両に飛び込んだ男の子は母親の分まで席をとった。あとから来た母親はそこに座ると、何事もなかったように笑顔で男の子と話し始めた。

 

 後日、70代の中国人男性にこの話をすると、「ああ、それは、一人っ子の男の子だから、まわりが甘やかしまくって、母親の言うことなんかもう聞かないんだろう」とのこと。

 一緒にいた男性の奥さんも、「その子はきっとそのまま勝手な大人になるんでしょう。どうしようもないわ」と言う。

 

 「うちのひとなんて、曲がったことが大嫌いだから、以前はこういうことがあると、徹底的に注意していたのよ」と、奥さん。

 

 あるとき車の運転中、信号待ちしていると、隣に止まっていた車からゴミが投げ捨てられたことがあった。

 「おい! お前! ゴミを捨てるな!」

 男性がそう怒鳴ったところで信号が青に変わり、隣のドライバーは素知らぬ顔で車を走らせ始める。

 

 男性がそれを猛然と追いかけると、運よく、次の信号で例の車が止まった。自分の車を路肩に止め、相手の運転席に近づき、降りるようにうながす。

 「なんでだよ」と抵抗する男性に、「さっき、ゴミを捨てたろう! 降りて拾いに行きなさい!」と畳みかける

 男性のあまりの剣幕に、相手はびびり、ばつが悪そうに「次は注意します」などとゴニャゴニャ言っていたそうだ。

 

 また、とある講演会に招かれたとき、会場で、真新しい深紅の絨毯の上にタバコを投げ捨てた男がいた。それを数メートル離れたところで目撃した男性は、男のところまで走って行った。

 「今、タバコを捨てただろう! 拾いなさい!」

 そう注意する男性に、相手の男は「お前になんの関係がある!」と言い返す。

 「関係があるかどうかなんて関係ない! 捨てた吸い殻を拾いなさい!」

 「そういうあんたは何様だよ!」

 「お前に注意をする者だ!」

  丁々発止でやり合う二人の周りに人だかりができはじめ、最終的に男は捨てた吸い殻をしぶしぶ拾ったと言う。

 

 そんな調子でずいぶん注意をしてまわっていたそうなのだが、今は全くしていないとのこと。

 「どうしてですか?」と聞けば、「あまりに多すぎてきりがないからやめたんだ」。

 

 「日本ではあまりこんなことはないだろう」と言われ、ないわけではないけれどそこまで激しく多くはないかなと思いつつ、帰国した先日。

 

 新宿近くの道端で、自転車を止めようとしたときのこと。

 ゆるゆると止まりかけたところに、ちょうど前から20代くらいの若い男性が歩いてきて、男性を遮る形になった。

 といっても、男性にぶつかったわけではなく、そのまま前をつっきって自転車を止めたのだが、すれ違いざま、男性は小声で言った。

 「ブス」

 

 一瞬、え?!と思った。

 ブスなんて言われたのは、中学校以来だろうか。あいにく、私はもはやブスと言われて傷つくような年齢ではない。訂正しようかどうしようか迷っているうちに、お兄さんは足早に去っていった。

 

 お兄さんはおそらく、前をふさがれてむっとした気持ちを、「ブス」という言葉にのせて、私になすりたかったのだろう。

 

 思えば、東京では、混んだ電車でやむをえず人にぶつかって、チッと舌打ちされることがある。あるいは、また、うっかりドアの前にいて人が下りるのに気づかずにいると、無言でドンッとぶつかられることもある。

 少し前、電車で中国人旅行者が話をしていたら、それほど大声ではなかったのに、日本人のおじさんがすれ違いざまに「うるせえんだよ」とつぶやいていた。

 

 日本は、中国みたいに少なからずの人が勝手な行為をまき散らす、ということは、それほど多くはないかもしれない。

 でもそのかわり、少なくともここ東京では、「不快のなすりつけ」というものがある、と思うのである。

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アマゾンのデリバリープロバイダが、北京の宅配業者的な件

 以前、重い猫のトイレ用砂をアマゾンで注文したら、配達業者がチャイムを鳴らさず、宅配ロッカーに入れて帰ってしまったことがあった。

 私の住んでいるマンションは、宅配ロッカーに荷物が入ると、ドアブザーが鳴って、「お荷物が届きました」とアナウンスが入るので、すぐわかるのである。

 

 今の日本で、こんなアバウトな配達があるのだろうかと、ネットで調べてみると、アマゾンでは大手宅配業者だけではまかないきれない配送を、地域限定の配送業者が請け負うようになって、トラブルが多発しているという。

 そのときの配達も、アマゾンが契約するデリバリープロバイダによるものだった。

 

 ひとまずアマゾンにクレームを入れると、電話口のお兄さん曰く「トラブルを避けるためには、コンビニで受け取っていただくのが一番です」

 いやいや、そういう問題じゃないから! 重いから宅配頼んでいるんだから!と、すったもんだすることしばし。

 

 その後、何度かノーチャイムで宅配ロッカーに入れるということが続き、先日はまた、在宅にもかかわらず、コメを宅配ロッカーに入れられてしまった。これもやはりデリバリープロバイダの配送だった。

 

 再度、アマゾンにクレームをすると、今度は電話口のお兄さんいわく、「お荷物によっては宅配ロッカーに入れてもよいという指示を出しています」。

 

 そんなはずはないでしょう!と、これまたすったもんだすることしばし。

 一向に埒があかないので責任者か他の人に替わってほしいと話しても、2分お待ちくださいと言って、2分後に再び電話に出たあと「自分が対応します、ご説明申し上げますと……」、と、説明という名の言い分を繰り返す。

 おもわず、ここは北京だったか、と既視感にとらわれた。

 

 7〜8年ほど前、北京ではネットショッピングの爆発的発展にともない、宅配業者も急増した。ところが、サービスのほうは、それはもうアバウトなもので、不達や誤配、破損はもちろんのこと、届くはずの日に届かないので連絡したら、「今日は疲れたからもう配達しない」などといわれたこともある。

 

 クレームを入れれば、「私の説明を聞いてください」という口上から、マシンガントークで長い長い言い分を聞かされた。おかげで私の中国語のヒヤリング能力はだいぶ上達したと思う。

 

 しかし、今、私がいるここは東京である。

、あまりに、話が通じないので、途中で電話を切ったところ、再度くだんのお兄さんから電話がかかってきた。それを断わり、改めてカスタマーサービスに電話した。

 

 今度のお兄さんは比較的普通で、「アマゾンで宅配ボックスに入れていいという指示は出してません」とのこと。

 そして、「宅配業者には、ドアチャイムを鳴らして在宅を確認するよう要望を出します」と、のたまった。

 

 そこは「要望」ではなくて、「クレーム」ではないかと思いつつ、ひとまず、これでよしとする。ここに至るまで、約30分。

 

 在宅時に部屋まで届けてもらえない宅配は困るし、改善の気配がないのにも心が折れそうになる。

 ただ、実のところ、本当に問題なのは、、指定通りの時間にきっちり荷物が届き、少しでも遅れると猛烈に責められて当然の日本において、これほどあっぱれにアバウトな配送サービスが可能なのは、グローバルの巨頭アマゾンくらい、ということのほうかもしれない。

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「東京ばななクリスピー」とコピー商品考

 先日、北京で、中国の大手ベーカリー&スイーツチェーン「好利来(Holiland)」に入ると、目に入ったのは、「はんじゅくちーず」と日本語で書かれた大きなポスターだった。

 「はんじゅくちーずタルト」というポスターもあり、どうやらこれらがいまの一押し商品のようである。

 

 さらに店内のスイーツコーナーには、日本でもなじみのレーズンバター、なにやらひよこ饅頭を彷彿とさせる「ひよこ」という名前の白餡菓子、さらには東京ばな奈ワールドの「東京ばな奈パイ」のそっくりさんでその名も日本語で「東京ばななクリスピー」なる商品が並んでいる。

 以前、日本の技術を取り入れているという話を聞いたような気がするが、それにしても、数年前まではこんなに「日本化」はしていなかった。

 

 好利来といえば、もともとおしゃれさと高級さとおいしさで急成長した企業で、北京の他のベーカリー&スイーツ店とは一線を画していた。

 創業者の羅紅氏は写真家としても知られた人物で、90年代初めに蘭州でケーキ屋さんをオープンしたところ、当時珍しかったおしゃれケーキが大ヒットして、好利来を創業したというエピソードが伝えられている。

 

 好利来発の超高級芸術的ケーキ「ブラックスワン」は、羅紅氏が黒鳥の写真をとっていたときに、これをケーキにしたいと思いつき、フランス人シェフを招いて苦労の末に開発したという逸話のある看板商品で、15僂離曄璽襪なんと1299元(約2万円)もする。

 

 そんな好利来で、なんちゃって日本風商品が並んでいるのである。

 しかも、そのクオリティが高い。

 一昔前の日本のぱくり商品といえば、安かろう悪かろうで、パッケージの日本語も意味をなしていなかった。

 

 ところが、例えば「東京ばななクリスピー」のパッケージには、「会いたい気持ちを、ふんわり空気のように、一口美味しく」などと、違和感のない日本語が書かれている。

 一つ買って食べてみると、さくさくチーズ味でなかなかおいしかった。

 

 一瞬、「東京ばな奈」とタイアップしたのかと思ったが、実はパッケージの内側には、チーズ菓子で有名なつくばの洋菓子職人、中山満男という人物が顔写真入りで紹介されていて、この中山シェフと好利来の職人が「職人の技が光るお菓子を作り続けています」と、これまた流暢な日本語で書かれていた。

 

 調べてみたところ、中山氏はつくばのコート・ダジュールという洋菓子店のオーナーシェフで、「はんじゅくちーず」「はんじゅくちーずタルト」はここの看板商品だった。

 好利来のサイトには経緯が紹介されていて、それによれば、2014年、好利来の創業者の息子二人が、「はんじゅくちーず」に感激し、つくばの中山氏を訪ねたという。

 

 最初は相手にされなかったものの、3度目の訪日で、上述の超高級ケーキ「ブラックスワン」などの写真をもっていったところ、「このレベルのものはフランスでしかみたことない」と感激していただき、「はんじゅくちーず」の製造販売権を得た、とある。

 そこで、コート・ダジュールに電話をして確認をしたところ、確かに数年前から北京の好利来で指導をしているそうだ。

 

 ということで、コート・ダジュールから権利を受けたチーズ菓子のほかに、ひよこ饅頭や東京ばな奈パイもどきのほか、六花亭のストロベリーチョコホワイト風商品など、どこかで見覚えのあるものが、「wagashi」というラインナップに並ぶ、という日本人的にはなんとも奇妙な光景なのである。

 

 それで思い出した話がある。

 テレビ東京の「未来世紀ジパング」で、アシックスを猛追するスポーツ用品メーカーとして取り上げられていた「安踏(ANTA)」のことだ。

 

 「安踏」は、15年くらい前、当時、雨後の筍のごとく出現したなんちゃってナイキロゴのローカルブランドの一つで、安く手に入るナイキもどきのシューズが、庶民にはけっこう人気だった。

 

 それが2009年にFILAの中国での商標権取得、2014年にはNBAとパートナーシップ契約を提携、NBA代表選手のクレイ・トンプソンと契約、さらに韓国のアウトドアウェア大手kolonなどの買収と躍進を続け、今や中国を代表するスポーツシューズブランドの一つとなった。

 

 ぶっちゃけ、一般庶民の間では、アシックスよりよほど知名度が高いのではないかと思う。

 2017年の一大消費デー「11・11」では、オンラインインショッピングで7億元近い売り上げを記録し、タオバオのBtoC(企業消費者間取引)サイト「天猫(テンマオ、Tmall)」でトップ3に入ったそうだ。

 

 それでも今なお、ナイキのAir VaporMaxっぽいシューズを売り出すなど、どこかなんちゃって感がぬぐえない。

 とはいえ、オリジナリティもあり、何より海外の技術を取り込んで、品質もデザインも各段に向上した。

 加えてそれを比較的安い値段で買える(といっても、以前にくらべると、庶民的にはちょこっと背伸びをするくらいの価格にはなったが)というところが、人気の秘訣であるようだ。

 

 この点、好利来はもう少し高級路線だが、やはり、安踏と同じような構図があると思う。

 すなわち、資金を投じて海外の技術を取り込み、その上でパクっている、ということだ。

 パクっているのは、中国ではそのほうがまだまだ売れるからだろう。

 

 思えば、中国の家電やスマホメーカーも、パクりの中からめきめきと実力をつけ、機能と価格の面からもはや単なるパクリの次元を超えた。

 そして日本では「恥ずかしい」コピー商品は、この国では逆に、コピーできるということが価値なのだと思う。

 

※写真は「好利来」サイトより。

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