中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
「格安」考

 某日、ネットをつらつら見ていたら、脳ドッグのLCCという文句が目に入った。

 すなわち、脳ドッグを2万円以下の格安で受けられるという。

 某IT大手のOBが脳ドッグに特化して始めた予防ビジネスで、予約から結果通知、さらには検査画像の確認にいたるまですべてネットで行えるようになっている。

 

 その紹介記事自体がステマっぽいし、院長の専門が循環器内科というのは少々ひっかかったが、いろいろコストダウンの努力をしていてこの価格、という話はあながちウソではなさそうだった。

 とりたてて悪いところもないけれど、この値段なら、ちょっと話のタネに受けてみようかなと、そんな気になった。

 

 そして、これが中国なら〜、と考えた。

 中国国内で、「格安」が成立するシーンはわりと限られると思う。

 

 スマホや家電、航空業界など、過当競争でしのぎをけずっている業界は、より大きな市場を獲得すべく、じゃんじゃん資金を投じて、いいものを安く提供する傾向があるけれど、多くの場合、安い=粗悪品(安心できないもの)であり、高い=よいもの(安心できてブランド価値が高いもの)的なイメージは根強い。

 そもそも、よいものは値段をあげても売れるので、一般に値段が釣りあがることが多いと感じる。

 

 ましてや、不信感が蔓延する中国の医療業界では、予防ビジネスとはいえ、「格安」商売が成り立つとはあまりイメージしにくい。

 

 ということで、東京で格安脳ドッグを受けてみた。所要時間は30分。ささっと超お手軽で、1週間ほどで結果の通知メールが届いた。

 そしてWEBのマイページに表示された結果は動脈瘤の疑いあり。ただし、現状ではクモ膜下出血の可能性は極めて低く、年に1度の検査を受けましょうという内容である。

 

 説明するのでご来院くださいと書かれていて、話を聞きにクリニックにおもむくと、医師は「疑い」なので動脈瘤とはかぎらないが、念のため3カ月後にもう1度受けたほうがよいとのたまう。ちなみにどこの部分の血管か聞いたところ、返ってきた答えが「脳の奥」。

 

 もしかしたら、そうしてリピート客をつくるというビジネスモデルなのかもしれない。

 不安商法といえばそうかもしれないが、本当に不安なら大きな病院できちんと検査をすればよいだけのことなので、とりたてて実害はない。

 

 これが中国なら、悪くないところを悪いと言われて不要な手術でがっぽりとられるとか、そこまでではなくても、あとからいろいろ追加検査されて請求されるかもしれない、などと妄想が膨らんでしまう。

 そう考えると、手軽にさくっと脳ドッグを受けられるサービスがあるのはありがたいことだといえるのではないだろうか。

 

 そして、日本で格安脳ドッグのようなビジネスが成り立つのは、監督体制がそれなりに機能しているというだけでなく、それだけ社会が成熟して安定しているということなのかもしれないと、そんなことを考えるのである。

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ジャック・マーとカンフーの世界

  先日、アリババのジャック・マー(馬雲)会長が早稲田大学の特別対談に来ていて話題になっていた。

 ジャック・マーといえば、世界が注目する中国の大企業家だが、そのマーが80年代から太極拳を習っていて、2009年には河南省温県陳家溝に伝わる陳式太極拳第十九代伝承者の王西安老師に師事し、カンフースターのジェット・リーらとともに太極拳文化を広める「太極禅」(カルチャースクールというかサロンというか)を運営、昨年11月に自身が主演のカンフーショートフィルム「功守道」を、太極拳文化PRの一環としてネット配信した、ということは、日本ではそれほど話題になっていなかったかもしれない。

 

 しかしこの「功守道」、中国での前評判はなかなか盛り上がっていた。

 なにしろ、総監督をジェット・リー、武術指導を「マトリックス」でアクション指導していたユエン・ウーピンや、懐かしのデブゴンことサモハンキンポーらがつとめ、出演者にはカンフーアクション映画には欠かせないドニー・イェンに呉京、タイのムエタイ俳優トニー・ジャーのほか、朝青龍や北京五輪ライトフライ級金メダリストの鄒市明まで登場し、しかもその中でジャック・マーが主役をはるというのである。

 

 何かの冗談かと半信半疑ながらもちょっと楽しみだったのは、マーが以前から、彼のビジネス哲学の背景には太極拳の思想があると語っていたからだ。

 「陰陽の考え方、いつ収めていつ放ち、いつ化(変化)し、いつ聚する(集める)かは企業管理と全く同じである」「太極拳の自ら攻めず、ごくわずかな力で大きなものを動かすという考え方は、ビジネスの理念にヒントをもたらす」などのマーの言葉が、メディアで伝えられていた。

 

 これは太極拳にかぎらず、中国武術全般にいえる思想だと思う。

 中国武術というと、派手なアクションをイメージするかもしれないが、本来の伝統武術は、中国古来の万物に対する深い哲学思想が根底にある。

 

 そして今、その伝統武術は風前の灯火状態だ。アクションやスポーツ競技、健康体操としてのカンフーではなく、本来の中国武術の思想や技術を深いレベル伝えられる老師は限られる。

 また、習得には時間がかかるし、本当に使えるようになるにはかなり難しい。加えて受け継ぐ側の若い世代が、伝統武術だけで食べていくのは非常に厳しく、現代風にアレンジしたり、一般受けするようなものにかえていかざるをえない。

 

 中国武術協会には中国武術を五輪種目に入れるという悲願がある。確かに五輪種目になればすそ野は広がるし、資金的にもメリットは大きいだろう。しかし、中国武術の醍醐味は、中華料理さながら各地各様、さらには各老師それぞれの味わいがあり、けして規範化されないところであったりもする。

 

 文化面では、流派によって無形文化財に指定されているものもあるのだが、その先生方いわく「あんなものは単なる称号、俺が死んだら消えてなくなるから無形というんだ」というくらいで、積極的な意義ある保護と伝承活動が行われている、という話は聞かない。

 

 そんななかにあって、ジャック・マーほど成功した企業家で、おそらく伝統武術にもよく触れていて、あれだけ頭のよい人が、陳式太極拳にかぎるとはいえ、伝統武術をPRするフィルムをかの錚々たるメンバーで制作したら、何かきっと面白いものができるのではないか、と思っていた。

 

 その結果、公開されたフィルムは、マーが陳式太極拳の華麗な身のこなしで、各スターたちを倒しまくったあげく、ラストはまさかの妄想オチという、なんともコメントのしようがない内容だった。

 

 随所に意味ありげな隠喩的シーンが挿入されているものの、よく意味がわからない。

 ガイジンだからわからないのかと思ったところ、中国メディアには「すみません、理解できたのは、エンドロールの出演者リストだけでした」というタイトルのコラムが掲載されたりして、ネット評価もふるわないようだった。

 これなら、ウォン・カーウァイ監督が「グランド・マスター」のメイキングで、中国各地の武術家を取材してまわったときのショートフィルムのほうがよほど味わい深かった。

 

 ということで、見なかったことにしてしまっていたのだが、先日、北京テレビを見ていたときのこと。

 大型京劇文化伝承番組「伝承中国」なるものが放映されていた。

 

 内容は、京劇界のスターをメインキャストに、女優や漫才など違う業界の若手スターが京劇を短期間で学び、最後に京劇界のお歴々の前で披露するというもので、日本でいえば、歌舞伎を市川海老蔵や尾上松也、松本幸四郎などが実力女優やタレントや芸人に教える、みたいな番組といえるだろうか。

 

 思えば、少し前まで、中国の伝統芸能がこんな風にバラエティ的にとりあげられることはなかった。そういう意味ではとても画期的だし、社会が伝統の継承的なことに関心をよせはじめているということなのかもしれない。

 

 ただその一方で、「伝承」の見せ方が、なんというか、バブリーで軽いのだ。

 学ぶ過程はあくまでバラエティだし、セットは大掛かりで豪華、スターたちは当然ながら、服も化粧もお金がかかってそうでみんなキラキラしている。

 

 結局、今どきの中国では、伝統にも、キラキラしさが求められるのだと思う。

 そうして目をひかなければ何も始まらないようなところがある。

 地道に黙々と続けていたら誰かが評価してくれる、なんてことは基本的にない。

 

 でも、とも思う。

 そのキラキラしい世界に、果たして未来はあるのだろうか。

 

 もしもいつか、ジャック・マーが太極拳をカンフースターたちのきらきらしさで飾り立てるのではなく、伝統の奥底にそっとスポットをあてるような映画をつくることがあったとしたら、現代社会における伝統武術の有り様も少し変わるのかもしれない。

 

「功守道」優酷(Youku)の独占配信で、2018年4月30日現在、再生回数1.9億回!

 

※以下、御案内です。

 今年2月に、私が日本でお世話になった武術家(で料理人)だった佐藤聖二先生の遺稿集が出版されました。

『佐藤聖二遺稿集 太気拳・意拳研究ノート』

 

 佐藤先生は、民国時代に意拳を創始した異才の武術家、王向斎に日本人として唯一師事した澤井健一先生(太気拳の創始者)の弟子で、80年代に単身、北京にわたり、澤井健一先生の兄弟子である姚宗勲先生に師事しました。

 本書は佐藤先生が53歳で亡くなられるまでの約5年半の研究ブログと北京時代のエピソードなどを記した原稿を収録したものです。

 先生の研究は太気拳・意拳にとどまらず、また多くの武術家の先生方と交流してこられました。

 私自身は本当にほんの少しの間、お世話になっただけなので、ご紹介できるような立場ではないのですが、それでも、佐藤先生の熱心な研究に触れたことで、中国武術がこれほど多様に満ち、奥深く、面白いものであるということを知ることができました。

 本書は、武術をやっていないと少々とっつきにくいかもしれませんが、先生の研究を通じて、中国の伝統武術の味わい深さに触れていただくことができればと思い、ここにご紹介いたしました。 

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中国的勝手のまき散らし、日本的不快のなすりつけ

 前回、北京に行ったとき、地下鉄の始発駅で並んでいると、小学校高学年くらいの男の子が横入りしてきた。一緒に母親らしい女性がいるが注意しない。ぱっとみたところ、品のよいやさしいお母さん風の女性だったので、なぜ、注意しないんだろうと不思議に思いながら、子供に「みんな並んでいるんだから並びなさいな」と言った。

 

 すると、子どもはくるりとこちらを向き、「どうせ始発で、並んでいる人も少ないんだから別にいいだろう」とまくしたてる。確かにそのとき並んでいたのは5〜6人だったが、みんな行儀よく2列に並んでいるのである。

 

 おもわずむかっとして、「そういうのを教養がないっていうんだよ」と言い返したところ、さらにヒートアップした早口でののしり始めた。

 もっともこちらはガイジンなので、ののしり言葉はよくわからないし、琴線には響かない。

 

 「そんなに言うなら、ゆずってあげるわ」と、前をあければ、男の子は素知らぬ顔で、一番前をじんどった。

 母親は何もいわず、一番後ろに並び、周りの大人も誰も何も言わなかった。

 そして電車が来ると、一番のりで車両に飛び込んだ男の子は母親の分まで席をとった。あとから来た母親はそこに座ると、何事もなかったように笑顔で男の子と話し始めた。

 

 後日、70代の中国人男性にこの話をすると、「ああ、それは、一人っ子の男の子だから、まわりが甘やかしまくって、母親の言うことなんかもう聞かないんだろう」とのこと。

 一緒にいた男性の奥さんも、「その子はきっとそのまま勝手な大人になるんでしょう。どうしようもないわ」と言う。

 

 「うちのひとなんて、曲がったことが大嫌いだから、以前はこういうことがあると、徹底的に注意していたのよ」と、奥さん。

 

 あるとき車の運転中、信号待ちしていると、隣に止まっていた車からゴミが投げ捨てられたことがあった。

 「おい! お前! ゴミを捨てるな!」

 男性がそう怒鳴ったところで信号が青に変わり、隣のドライバーは素知らぬ顔で車を走らせ始める。

 

 男性がそれを猛然と追いかけると、運よく、次の信号で例の車が止まった。自分の車を路肩に止め、相手の運転席に近づき、降りるようにうながす。

 「なんでだよ」と抵抗する男性に、「さっき、ゴミを捨てたろう! 降りて拾いに行きなさい!」と畳みかける

 男性のあまりの剣幕に、相手はびびり、ばつが悪そうに「次は注意します」などとゴニャゴニャ言っていたそうだ。

 

 また、とある講演会に招かれたとき、会場で、真新しい深紅の絨毯の上にタバコを投げ捨てた男がいた。それを数メートル離れたところで目撃した男性は、男のところまで走って行った。

 「今、タバコを捨てただろう! 拾いなさい!」

 そう注意する男性に、相手の男は「お前になんの関係がある!」と言い返す。

 「関係があるかどうかなんて関係ない! 捨てた吸い殻を拾いなさい!」

 「そういうあんたは何様だよ!」

 「お前に注意をする者だ!」

  丁々発止でやり合う二人の周りに人だかりができはじめ、最終的に男は捨てた吸い殻をしぶしぶ拾ったと言う。

 

 そんな調子でずいぶん注意をしてまわっていたそうなのだが、今は全くしていないとのこと。

 「どうしてですか?」と聞けば、「あまりに多すぎてきりがないからやめたんだ」。

 

 「日本ではあまりこんなことはないだろう」と言われ、ないわけではないけれどそこまで激しく多くはないかなと思いつつ、帰国した先日。

 

 新宿近くの道端で、自転車を止めようとしたときのこと。

 ゆるゆると止まりかけたところに、ちょうど前から20代くらいの若い男性が歩いてきて、男性を遮る形になった。

 といっても、男性にぶつかったわけではなく、そのまま前をつっきって自転車を止めたのだが、すれ違いざま、男性は小声で言った。

 「ブス」

 

 一瞬、え?!と思った。

 ブスなんて言われたのは、中学校以来だろうか。あいにく、私はもはやブスと言われて傷つくような年齢ではない。訂正しようかどうしようか迷っているうちに、お兄さんは足早に去っていった。

 

 お兄さんはおそらく、前をふさがれてむっとした気持ちを、「ブス」という言葉にのせて、私になすりたかったのだろう。

 

 思えば、東京では、混んだ電車でやむをえず人にぶつかって、チッと舌打ちされることがある。あるいは、また、うっかりドアの前にいて人が下りるのに気づかずにいると、無言でドンッとぶつかられることもある。

 少し前、電車で中国人旅行者が話をしていたら、それほど大声ではなかったのに、日本人のおじさんがすれ違いざまに「うるせえんだよ」とつぶやいていた。

 

 日本は、中国みたいに少なからずの人が勝手な行為をまき散らす、ということは、それほど多くはないかもしれない。

 でもそのかわり、少なくともここ東京では、「不快のなすりつけ」というものがある、と思うのである。

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アマゾンのデリバリープロバイダが、北京の宅配業者的な件

 以前、重い猫のトイレ用砂をアマゾンで注文したら、配達業者がチャイムを鳴らさず、宅配ロッカーに入れて帰ってしまったことがあった。

 私の住んでいるマンションは、宅配ロッカーに荷物が入ると、ドアブザーが鳴って、「お荷物が届きました」とアナウンスが入るので、すぐわかるのである。

 

 今の日本で、こんなアバウトな配達があるのだろうかと、ネットで調べてみると、アマゾンでは大手宅配業者だけではまかないきれない配送を、地域限定の配送業者が請け負うようになって、トラブルが多発しているという。

 そのときの配達も、アマゾンが契約するデリバリープロバイダによるものだった。

 

 ひとまずアマゾンにクレームを入れると、電話口のお兄さん曰く「トラブルを避けるためには、コンビニで受け取っていただくのが一番です」

 いやいや、そういう問題じゃないから! 重いから宅配頼んでいるんだから!と、すったもんだすることしばし。

 

 その後、何度かノーチャイムで宅配ロッカーに入れるということが続き、先日はまた、在宅にもかかわらず、コメを宅配ロッカーに入れられてしまった。これもやはりデリバリープロバイダの配送だった。

 

 再度、アマゾンにクレームをすると、今度は電話口のお兄さんいわく、「お荷物によっては宅配ロッカーに入れてもよいという指示を出しています」。

 

 そんなはずはないでしょう!と、これまたすったもんだすることしばし。

 一向に埒があかないので責任者か他の人に替わってほしいと話しても、2分お待ちくださいと言って、2分後に再び電話に出たあと「自分が対応します、ご説明申し上げますと……」、と、説明という名の言い分を繰り返す。

 おもわず、ここは北京だったか、と既視感にとらわれた。

 

 7〜8年ほど前、北京ではネットショッピングの爆発的発展にともない、宅配業者も急増した。ところが、サービスのほうは、それはもうアバウトなもので、不達や誤配、破損はもちろんのこと、届くはずの日に届かないので連絡したら、「今日は疲れたからもう配達しない」などといわれたこともある。

 

 クレームを入れれば、「私の説明を聞いてください」という口上から、マシンガントークで長い長い言い分を聞かされた。おかげで私の中国語のヒヤリング能力はだいぶ上達したと思う。

 

 しかし、今、私がいるここは東京である。

、あまりに、話が通じないので、途中で電話を切ったところ、再度くだんのお兄さんから電話がかかってきた。それを断わり、改めてカスタマーサービスに電話した。

 

 今度のお兄さんは比較的普通で、「アマゾンで宅配ボックスに入れていいという指示は出してません」とのこと。

 そして、「宅配業者には、ドアチャイムを鳴らして在宅を確認するよう要望を出します」と、のたまった。

 

 そこは「要望」ではなくて、「クレーム」ではないかと思いつつ、ひとまず、これでよしとする。ここに至るまで、約30分。

 

 在宅時に部屋まで届けてもらえない宅配は困るし、改善の気配がないのにも心が折れそうになる。

 ただ、実のところ、本当に問題なのは、、指定通りの時間にきっちり荷物が届き、少しでも遅れると猛烈に責められて当然の日本において、これほどあっぱれにアバウトな配送サービスが可能なのは、グローバルの巨頭アマゾンくらい、ということのほうかもしれない。

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「東京ばななクリスピー」とコピー商品考

 先日、北京で、中国の大手ベーカリー&スイーツチェーン「好利来(Holiland)」に入ると、目に入ったのは、「はんじゅくちーず」と日本語で書かれた大きなポスターだった。

 「はんじゅくちーずタルト」というポスターもあり、どうやらこれらがいまの一押し商品のようである。

 

 さらに店内のスイーツコーナーには、日本でもなじみのレーズンバター、なにやらひよこ饅頭を彷彿とさせる「ひよこ」という名前の白餡菓子、さらには東京ばな奈ワールドの「東京ばな奈パイ」のそっくりさんでその名も日本語で「東京ばななクリスピー」なる商品が並んでいる。

 以前、日本の技術を取り入れているという話を聞いたような気がするが、それにしても、数年前まではこんなに「日本化」はしていなかった。

 

 好利来といえば、もともとおしゃれさと高級さとおいしさで急成長した企業で、北京の他のベーカリー&スイーツ店とは一線を画していた。

 創業者の羅紅氏は写真家としても知られた人物で、90年代初めに蘭州でケーキ屋さんをオープンしたところ、当時珍しかったおしゃれケーキが大ヒットして、好利来を創業したというエピソードが伝えられている。

 

 好利来発の超高級芸術的ケーキ「ブラックスワン」は、羅紅氏が黒鳥の写真をとっていたときに、これをケーキにしたいと思いつき、フランス人シェフを招いて苦労の末に開発したという逸話のある看板商品で、15僂離曄璽襪なんと1299元(約2万円)もする。

 

 そんな好利来で、なんちゃって日本風商品が並んでいるのである。

 しかも、そのクオリティが高い。

 一昔前の日本のぱくり商品といえば、安かろう悪かろうで、パッケージの日本語も意味をなしていなかった。

 

 ところが、例えば「東京ばななクリスピー」のパッケージには、「会いたい気持ちを、ふんわり空気のように、一口美味しく」などと、違和感のない日本語が書かれている。

 一つ買って食べてみると、さくさくチーズ味でなかなかおいしかった。

 

 一瞬、「東京ばな奈」とタイアップしたのかと思ったが、実はパッケージの内側には、チーズ菓子で有名なつくばの洋菓子職人、中山満男という人物が顔写真入りで紹介されていて、この中山シェフと好利来の職人が「職人の技が光るお菓子を作り続けています」と、これまた流暢な日本語で書かれていた。

 

 調べてみたところ、中山氏はつくばのコート・ダジュールという洋菓子店のオーナーシェフで、「はんじゅくちーず」「はんじゅくちーずタルト」はここの看板商品だった。

 好利来のサイトには経緯が紹介されていて、それによれば、2014年、好利来の創業者の息子二人が、「はんじゅくちーず」に感激し、つくばの中山氏を訪ねたという。

 

 最初は相手にされなかったものの、3度目の訪日で、上述の超高級ケーキ「ブラックスワン」などの写真をもっていったところ、「このレベルのものはフランスでしかみたことない」と感激していただき、「はんじゅくちーず」の製造販売権を得た、とある。

 そこで、コート・ダジュールに電話をして確認をしたところ、確かに数年前から北京の好利来で指導をしているそうだ。

 

 ということで、コート・ダジュールから権利を受けたチーズ菓子のほかに、ひよこ饅頭や東京ばな奈パイもどきのほか、六花亭のストロベリーチョコホワイト風商品など、どこかで見覚えのあるものが、「wagashi」というラインナップに並ぶ、という日本人的にはなんとも奇妙な光景なのである。

 

 それで思い出した話がある。

 テレビ東京の「未来世紀ジパング」で、アシックスを猛追するスポーツ用品メーカーとして取り上げられていた「安踏(ANTA)」のことだ。

 

 「安踏」は、15年くらい前、当時、雨後の筍のごとく出現したなんちゃってナイキロゴのローカルブランドの一つで、安く手に入るナイキもどきのシューズが、庶民にはけっこう人気だった。

 

 それが2009年にFILAの中国での商標権取得、2014年にはNBAとパートナーシップ契約を提携、NBA代表選手のクレイ・トンプソンと契約、さらに韓国のアウトドアウェア大手kolonなどの買収と躍進を続け、今や中国を代表するスポーツシューズブランドの一つとなった。

 

 ぶっちゃけ、一般庶民の間では、アシックスよりよほど知名度が高いのではないかと思う。

 2017年の一大消費デー「11・11」では、オンラインインショッピングで7億元近い売り上げを記録し、タオバオのBtoC(企業消費者間取引)サイト「天猫(テンマオ、Tmall)」でトップ3に入ったそうだ。

 

 それでも今なお、ナイキのAir VaporMaxっぽいシューズを売り出すなど、どこかなんちゃって感がぬぐえない。

 とはいえ、オリジナリティもあり、何より海外の技術を取り込んで、品質もデザインも各段に向上した。

 加えてそれを比較的安い値段で買える(といっても、以前にくらべると、庶民的にはちょこっと背伸びをするくらいの価格にはなったが)というところが、人気の秘訣であるようだ。

 

 この点、好利来はもう少し高級路線だが、やはり、安踏と同じような構図があると思う。

 すなわち、資金を投じて海外の技術を取り込み、その上でパクっている、ということだ。

 パクっているのは、中国ではそのほうがまだまだ売れるからだろう。

 

 思えば、中国の家電やスマホメーカーも、パクりの中からめきめきと実力をつけ、機能と価格の面からもはや単なるパクリの次元を超えた。

 そして日本では「恥ずかしい」コピー商品は、この国では逆に、コピーできるということが価値なのだと思う。

 

※写真は「好利来」サイトより。

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北京的迷子犬の行方

 少し前、北京で飼っていた犬を逃がしてしまった、という人からこんな話を聞いた。

 

 中国では、犬の散歩でリードをする人はあまりいない。

 そのときも、近所の公園をリードなしで好きに歩かせていたそうだ。

 が、ふとした拍子に見失ってしまった。名前を呼んでも姿を見せない。

 

 困ったご両親はさんざんあたりをさがしたものの、結局、その日は犬を見つけることができなかったそうだ。

 実はその犬は娘さんがとてもかわいがっていたのだそうで、犬がいなくなったことを知った娘さんは、大変なショックを受けた。

 

 では、どうやってさがすか。 

 ネットでいなくなった犬の探し方を「百度」すると、(1)張り紙をはる。賞金もかける(←ここ重要)(2)QQや微信などあらゆる手段をつかって探す。賞金額も明記する(←ここ重要)(3)いなくなった付近の監視カメラをチェックさせてもらう(←中国の路上にはあちこちにカメラがある)(4)動物病院にケガをして運び込まれた犬がいないかたずねる(5)犬のペット市場を探す(←ブランド犬は売れるので、高そうな犬がフラフラと歩いていると、捕まえて、転売されるそうだ)などと書かれている。

 他にも、犬肉レストランを探すなどというブラックジョークなのかどうかよくわからないものあったりする。

 

 そのときは、娘さんが近所に聞いてまわり、ちょうど散歩させている時間に保健所の野良犬狩りがあったことがわかった。

 となると、公園にいた犬たちは北京郊外の収容所に運ばれた可能性が高い。

 が、どこの収容所につれていかれたかわからない。

 

 2005年に施行された北京市収容動物管理弁法によれば、15日をすぎて引き取り手のなかった動物は、動物防疫監督机構の責任によって処理、つまり殺処分をされる、とある。

 

 ご両親はもうあきらめたらと言ったものの、娘さんは絶対に探すと、それはもう必死で役所に電話をしてたずねてまわったそうだ。

 それで、そのとき捕獲された犬が入っているであろう収容所をつきとめた。

 

 郊外にあるその施設まで足を運ぶと、何百匹という犬が檻の中でひしめきあっていたという。 

 何度も檻の前をいったりきたりして探すのだが、どこも犬づくしで、とても自分の犬をみつけることができない。

 

 施設内を2周して、同行していたご両親がもう帰ろうと促すと、娘さんは泣きながら犬の名前を叫んだ。

 すると、群れの中から、一匹、ぴょんっと飛び上がった犬がいた。

 それが、まさに、いなくなった犬だったそうだ。

 こうして奇跡的に取り戻すことができた。

 

 という、実に感動的な話なのだが、冷静に考えると、北京ではあれだけペットブームで犬があふれまくっているのに、街中で迷子の犬や捨てられた犬をあまりみかけないということは、つまりそれだけ「清掃」されている、ということのようである。

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裁量労働制に想うこと

 今朝の「日曜討論」で裁量労働制についてえらい人たちが討論をしていた。

 それで疑問に思ったのだが、裁量労働でも固定時間でもフレックスでも時給でも、日本人は「働きすぎ」をそうそうやめられないのではないだろうか。

 

 なぜなら日本社会には、生真面目さを評価する価値観があると思うからだ。

 東京のとある職場でバイトをしていると、裁量労働か時給かにかかわらず、真面目にきっちりやって、オーバーワークしている人たちがいる。

 

 強制されて働かされているわけではなく、優秀ゆえにてきとーにはできず、時間外労働をしているのである。

 一例をあげると(実際にそういう業務があるわけではないが)、先方から1〜5までのものをそろえてほしいというリクエストがあったら、ちゃんと1〜5まで完璧にしっかりそろえる、といった具合である。

 

 これがもし、中国人相手ならと考えると、たぶん、1と2くらいを返して、あとはどうしても必要だったら、また言ってくるだろうから、そのとき考える、みたいなやり方になるだろう。

 

 別に中国人だから適当にやる、というわけではなく、そもそもリクエスト自体がざっくりで、途中で変更したりすることもしょっちゅうなので、きっちりさより臨機応変さのほうが求められるからだ。

 特に中国で出来るタイプの人は、そういう立ち回りが上手い人が多い気がする。

 

 話を日本に戻すと、少なくとも私の半径5メートルくらいをみるかぎり、仮に制度で働き方をかえたとしても、日本人が生真面目さという価値観を放棄しないかぎり、結局、働ぎすぎはなくならないのではないかという気がする。

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電車の遅延アナウンスに想うこと

 某日、京王線に乗っていると、緊急信号を受信したとかで、電車が2回急停止した。結局、安全を確認したということですぐに発車したのだが、その後、「緊急停止を2回したために、3分遅れが生じました。ご迷惑をおかけしました」という車内アナウンスが、駅につくたびに繰り返された。

 

 加えてその帰り道、今度は山手線で3分の遅延が出て、やはり駅に着くたびに説明とお詫びのアナウンスが流れていた。

 

 丁寧で誠実といえばそうかもしれないが、なにもそこまでしなくても……と思ったのは、私一人ではないだろう。

 

 また、ある時、都電荒川線に乗ると、運転席近くに「乗務員が体調維持のため、停車中に水分補給を行う場合があります」という張り紙があり、おもわずのけぞったこともあった。

 北京のバスでは、運転手も車掌のおばちゃんも、お茶入りマイボトル持参は当たり前の光景だったので、まさかあえて説明をするようなことであるとは思いもよらなかった。

 

 それにしても、運転手がお茶を飲むことや、たかが3分の遅延におことわりや謝罪が必要だとしたら、そんな社会はずいぶん息苦しそうだ。

 そう考え、はたと思った。

 

 この種のアナウンスに違和感を覚えるのは、単にトゥーマッチというだけでなく、「謝罪するのでお許しください」的な「保身」と表裏一体なところがあるからではないだろうか。

 であるならば、保身という防御において、バカまじめさをさらけ出して謝罪するという戦略がまかり通る日本は、やはりきわめて「いい国」といえるかもしれない。

 

 中国でも近年は謝罪が増えたが、基本的には、攻撃は最大の防御である。

 例えば、去年、北京に行ったときのこと。

 予約したホテルに行くと、ガラス扉の向こうは真っ暗だった。一時的な停電かと思い、ドアをあけると、真っ暗なフロントにいた若いスタッフいわく、「公安からの営業停止を受けたので今日は泊められません」。

 

 そして「かわりに、姉妹店があるので、そちらに案内する」とのこと。ただ、聞けば、かなり遠方の郊外。私はこの場所に用事があって、ここのホテルをとったのだから困ると言えば、「じゃあ、自分でなんとかしてください」。

                                             

 そこからはもういわずもがなのバトルである。こちらが「そっちの都合で泊められないんだから、近隣のホテルに連絡して替わりの部屋を手配すべき」と言えば、「私たちだって公安に言われた被害者。姉妹店に案内するといっているのに勝手を言っているのはそっちのほう」とやり返す。

 

 あとから聞いた話では、実はドミトリーの一室で盗難があり、盗難にあったのがアメリカ人で、1000ドルという大金であったために警察沙汰となったそうだ。それで、店主も責任を問われ、前日から拘留され、スタッフも徹夜で対応に追われていたという。

 

 結局、かなりのすったもんだのすえ、なんのことはない、歩いて数百メートルのところにもう一軒姉妹店があり、そこに一部屋取ってもらうことができた。

 最初からそこに案内しなかったのは、オンシーズンで、私が入ると満室になってしまうので、あけておきたかったようだ。

 

 ホテルの「自分たちも被害者」という言い分は、確かに一理あるのだが、それでもこういうとき、自分は悪くなくてもとりあえず謝る日本式が恋しくなる。

 

 さて、話をもどすと、冒頭の電車の遅延謝罪アナウンス。

 せっかくなので、海外ではおそらくあまりみることができないだろうそれを、東京五輪に向けて、英語と中国語と韓国語でも流したらどうだろうか。

 

 それが海外の人にとって「心地よい」かどうかはわからないが、戦略的にやれば「名物」になるかもしれない。

 そうしたら、3分遅延で謝罪のアナウンスも、もっと楽しいものになるのでは、と妄想するのである。

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