中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
大家さん@北京
 北京のアパートにはおそらく6年くらいは住んでいただろうと思う。
 北京で一か所にそれだけ長く住めるというのは、実はとても貴重なことだ。
 
 なにしろ家賃が高騰しまくるのである。前に住んでいた部屋は、2年足らずの間に、2000元(1元=約17円)から3800元まで上がった。その後、ほどなくしてさらに5500元まで上がるという高騰ぶりだ。
 北京五輪をはさんでいたのと、近くに有名小学校があり、ニーズが多いため家賃がうなぎのぼりだったこともあるが、多かれ少なかれ、どこも似たり寄ったりの状況だろう。
 
 おまけに日本のように借り手が手厚く保護されているわけではないので、大家さんの鶴の一声、たとえば息子が海外から戻ってきたので部屋を使いたいとか、売却したいとかいう理由で簡単に追い出される。
 少し前までは再開発にともなう取り壊しで追い出されるということもよくあった。
 
 そんな中で、相場よりも1000元近く安い家賃で貸してくれて、6年いても値上げはせいぜい200〜300元、加えて何かあれば遠方からすぐ来てくれるという大家さんは、本当にありがたかった。
 
 この大家さんは、ちゃきちゃきの江戸っ子ならぬ北京っ子で、30代女性だ。親からゆずりうけた部屋であるらしく、だんなさんと一緒に管理をしていた。
 一度、何かの事情でお金が入り用になったらしく、借金を申し込まれたことがあった。さすがにお金は貸せないので、家賃を前倒しで支払ったが、その後、ほどなくして双子のあかちゃんが生まれたことを考えると、不妊治療費のための費用だったのかもしれない。
 
 そして退去の際、私がすっかり忘れていた2000元のデポジットも「ちゃんと返さないと!」と言ってもってきてくれた上、私が交換した玄関の鍵の代金まで払ってくれた。
 これはもう、今の北京では奇跡のような話だ。
 
 それで、おしゃべりのついでに、次の人はどうするのかという話になった。
 このまま次の人を探すというのだが、さすがに90年代に建てられたあと、1度もリフォームをしていないので、タイルが落ちたり、壁にひびがはいったりと、だいぶガタがきている。
 
 私の知り合いで、マンションを10部屋持っている人は、内装に少しお金をかけて、高めの価格で賃貸に出しているので、その話をすると、「でも、内装も金かかるからなあ」とだんなさん。
 あまり乗り気ではなさそうな感じだったが、翌日、「やっぱり内装することにしたよ!」と電話がかかってきた。
 
 こういうとき、中国の人は即断即決即実行だ。「部屋の寸法はかりにいきたいんだけれど」と言うので、「いつ?」と聞けば、「明日!」。
 そこで「仕事もあるし引越しの荷物で部屋が溢れかえっているんだけどなあ」と返せば「全然、気にしないから!」。
 
 いや、そこは気にしてほしいところなんだけれどと思いつつ、承諾すると、翌日、業者をつれてやってきた大家さんは、その場で小一時間ばかりあれこれ討議をしていた。
 そこですっかり内装スイッチが入ってしまったらしい。
 
 その後も何度か唐突に連絡があり、中には「「今日これから行きたいけどいい?」と言われ、銀行から走って戻ったりもした。窓枠やらベランダやらをはかりながら、「ここをこう内装して、いくらで貸すんだ」という話にすっかり夢中だ。
 翌日は帰国という日に「今日これから行きたい!」と連絡があったときには、さすがに倒れそうになった。
 
 大家さんの名誉のために付け加えると、彼女は今の中国において、とても「きちんとした人」だと思う。
 毎回、部屋に来たときに、飲み物などを出すのだが手をつけず、いつも礼儀正しくしている。アポなし訪問も絶対にしない。
 20年選手の冷蔵庫が発熱して危ないと言えば、新しい冷蔵庫を買ってくれたこともある。
 
 以前の部屋では、使っていない期間の電話代を大家さんから請求されたこともあった。あるいは最初に借りた部屋の大家さんは、悪い人ではなかったが、ある種「典型的」な北京のおばさんで、私がためていた古新聞を、「処分しておいてあげるよー」と実に親切そうに回収し、ちゃっかり回収業者に売っていたということもあった。
 今の大家さんは、そういうことはまずしないタイプだ。
 
 ただちょっと内装のことでちょっと前のめり気味で、私はそれに振り回されてしまうのである。
 ともあれ、なんとか無事帰国。
 
 日本に戻ってから、中国版LINEの微信で、御礼と光熱費の支払いなどに問題なかったか確認のメッセージを送ると、「没問題〜」と返ってきたあと、「そうそう、ここにいたときの光熱費の領収書送って!」。
 それは前から言われていて、なんのことだろうと思っていたのだが、どうやら何かの手続きで、それがあると「得する」といった事情らしい。
 
 もっとも光熱費は私が支払ったものなので、その領収書を彼女に渡す必要はない。日本であれば、「ずうずうしい」ということになると思うのだが、ここは「言ってなんぼ」の中国である。
 
 「どのくらい必要なの?」と問えば、「過去の分全部」。「電気代だけでいい?」と聞くと、「電話どガスと水道も! 田中(ティエンジョン)ならなんでもとってあるでしょ」。
 それは確かにとってはあるが、過去の分といえば6年分だ。
 こういうとき、中国での人の付き合いとは、体力と気力の勝負的だとしみじみ思うのである。
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