中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
「こうあるべき」という病巣〜まとめサイト問題に思うこと

 このところ、世間を騒がせているDeNA傘下の療情報サイト「WELQ」に関するニュースを見ていて、ふと疑問に思ったのは、明らかに素人が書いたであろう無料の医療情報に信ぴょう性がなく、コピペ記事であることが、どうしてこれだけ問題になるのだろうか、ということだった。

 

 中国でもこうしたなんちゃって医療情報記事はとてつもなく多い。だいたい、あやしげな医療広告とセットになっていて、それにはまる人も少なくない。

 中国人は、日本人以上にネット情報に対して注意深いものの、手口はどんどん巧妙になっていくし、教育レベルの問題もあって、やはり騙される人は後を絶たない。

 

 今回の騒動は、DeNAのように上場までしている大手企業がこんな信頼性を損なうことをしていかがなものか、というのは、当然あるだろうとは思う。

 これが無名のよくわからない企業がやっていることであれば、ここまで騒動にならなかったかもしれない。

 

 ただそれだけでなく、日本の社会はどこか、「あるべき姿勢」というものを前提にしているところがあると感じる。

 公開する情報は正しくて当たり前、大企業は責任ある行為を行って当たり前、さらには人をだまさなくて当然だ、みたいな空気を感じる。

 

 これは、日本社会ではまだ、性善説が健在な証であるとも思う。

 例えば、ホテルは、客が3カ月前に予約し、支払をすませていなくても、ちゃんと当日まで部屋をキープしておいてくれる。こんなこと、中国ではまずありえない。

 

 病院では会計は一番最後、しかも払わず逃げ放題なシステムだけれど、患者はおおむねちゃんと支払うだろうし、病院も支払うことが前提ですべてが行われる。

 

 ちなみに中国の病院は、すべて先払いだ。まず、診察料に相当する金を払って、診察の順番カードを取得し、診察を受ける。そこで、検査をすることになったら、まず会計窓口に行き、支払いをしてから、その領収書を持って検査を受ける。

 このため、病人は診察室と会計窓口(しかも検査の内容によって支払い場所が異なる)と検査室を、大量の病人(と付き添い人)にもみくちゃにされながら往復しなければならない。でも日本では、そんなことはありえない。

 

 基本的に性善説で、信頼を前提に話が進む日本は、なんてすばらしいんだろうと思う。

 でも同時に、悪意や狡猾さに対して、免疫が低いのではないかと思うこともある。

 

 世の中は、残念ながら、わりと欺瞞に満ちていると感じる。

 例えば、スーパーやドラッグストアに行くと、いまやノンシリコンシャンプーが溢れていて、ネットには、髪にとってシリコンは悪、みたいな情報が溢れている。

 

 でも、長い付き合いの美容師さんは、ノンシリコンシャンプーをあまり勧めない。別によくもなければ悪くもないという感じだ。髪質にもよるので、ノンシリコンで髪がキシキシになり、櫛にひっかかって抜け毛が増えるようなシャンプーは、逆によくないのではないかと話す。

 

 実は、ノンシリコンが流行り始めたころ、棚に並んだ各種のノンシリコンシャンプーは、みな同じメーカーの製品で、それも10名に満たない会社がやっているという話だった。

 ネットで調べれば、ノンシリコンシャンプーの火付け役メーカーの名前も出てくるが、それもあくまでネット情報なので、どこまで本当かはわからない。

 

 一億総中流社会はとっくに過去のものとなり、グローバリゼーションの波も押し寄せて、日本社会もうかうかしていてはどん底に落ちかねないような雰囲気が漂う。

 いろいろとじり貧になっていく中、ズルして勝ち抜こうという人は当然増えるだろう。

 

 そうでなくても、くだんのネット記事についていえば、4000字でせいぜい1万円程度なんて、あきらかに安すぎる原稿を依頼する側としては、「できるだけ手間をかけずに、書いてください」とお願いせざるをえない。

 

 私もそうお願いするし、されたことも何度もある。

 その過程で、「××を参考にして、ちゃちゃっとお願い」と言われることもあれば、それが進めば「××と××をコピペして、著作権にひっかからないように表現を変えて」などという依頼が来るのは痛いほどよくわかる。しかもこんな安い記事に校閲などつくわけもない。

 

 私は幸い、そういうコピペ仕事を受けることはなかったけれど、要は、末端レベルでは、悪意すらなく、逆にただ、依頼する側とされる側の「善意」で、なんちゃって記事が生まれることもありうるということだ。

 

 そんな中、「正しくあるべき」という前提とそうした物事の見方は、問題解決にはつながらない。

 「あるべき」は到底無理な状況で、ではどうしたらいいのか、という問いかけが必要ではないかと考えるのである。

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