中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
徐暁冬(格闘技)VS魏雷(太極拳)と日中経済実力差

 中国総合格闘技の徐暁冬選手が、自称雷公太極拳の創始者、魏雷氏を、あっという間にKOした、という話が話題になっていた。

 

 まず、ざっくりした背景として、徐暁冬選手というのは、名門、北京什刹海体育学校の出身で、自身も道場を構えるプロ格闘技家。以前から中国の伝統武術はダメダメだと喧嘩を売る毒舌キャラで売り出していた。

 

 一方、魏雷氏のほうは、自称、楊式太極拳の名士の弟子(?)で、自身で雷公太極拳を創始したという人物。それで、CCTVに出たりもしていたが、実戦派ではない模様。

 それなのに、どうやら周囲から持ち上げられて、試合に応じることになったらしい。

 

 それで、たちまちKOされたうえ、靴が滑ったとか、本気で内功を発揮したら相手は死んでいたとかいう話をして、さらに炎上。

 

 こうして、徐暁冬氏は一躍、時の人となり、炎上商売に成功したかとおもいきや、あまりに盛り上がりすぎて、「なんなら俺と勝負しろ!」という(たぶん便乗商売型の)伝統武術家も出てきたり、徐暁冬氏の過去の「政治的発言」まで取りざたされるようになったりして、さらにてんやわんや。

 

 ところで、こういう騒ぎがおきると(あるいはおきなくても)、巷では「伝統武術は果たして戦えるのか」という話が取り沙汰される。

 実際、伝統武術を習っていると、「それは強いのか」と聞かれることもある。

 

 私自身は、何かを言える立場ではないけれど、それでも、従来の中国武術は、とても奥深く、味わい深いものだと思う。そして、学ぶことは簡単ではない。そもそも、誰でもが習得できるものではなく、試合でどっちが勝ったから強い、みたいな明確さもない。

 

 加えて、今は、表演や競技として現代化した中国武術もあって、ややこしい。

 そのわかりにくさが、いろいろな誤解や、自称達人などを生んでいるところがある。

 

 それで今回、ふと思ったのは、伝統武術と格闘技のどっちが強いかという話は、なんだか日中の経済実力はどっちが上かみたいな話だ、ということだ。

 

 中国は、GDPではとっくに日本を抜いて世界第2位。でも、日本経済にも、長年培ってきたものがあり、実力という点ではそう簡単に譲らないところもあるだろう。

 と、同時に、それに胡坐をかいていれば、中国の新世代の発想とパワーにあっというまにひっくり返されてしまうだろうし、実際、それが現実になっているところは少なくない。

 

 でもだからといって、日本が世界経済において中国に正面から挑んで勝ったら「えらい」のか、といえば、それ自体ナンセンスな話で、日本は日本で粛々とその道を進むのが筋だろう。

 

 中国経済=格闘技、日本経済=伝統武術ではけしてないし、よい例えだとも思わないけれど、はたからみたらそうした側面があるように思う。

 

 さて、くだんの騒動、その後、どうなったかというと、警察が動いたらしい、という噂が流れ、徐暁冬氏の毒舌微博(SNS)は閉鎖された。そして、徐暁冬氏は謝罪。

 「伝統武術を馬鹿にしたわけではなく、伝統武術を語る偽物を倒したかった」という話に加えて、自身の恩師も八卦掌とシュワイジャオを学んでいた、などという話を披露していた。

 

 結局、伝統武術家より、格闘技家より、お上は強し、というこの顛末。あとは何もなければそのまま幕が下りるだろう。

 でも、お上による伝統武術の保護と普及が、武術の武術たる伝統を損う要因になっているのでは、と思わなくもない。

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