中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
老舗と伝統

 中国では、代々続く個人の店がない。以前、北京在住の日本人ジャーナリストがそんな話をしていて、なるほどと思ったことがある。

 

 もちろん、まったくない、というわけでもない。私が住んでいた胡同には、地元の人がおばあちゃんの代から通っているという総菜屋があった。また、祖父が宮廷料理人で、そのレシピをひきついだレストランなるものもあったりする。

 

 あるいは数年前、「舌上の中国」という、各地の伝統的な手法と自然の素材でつくられる、一般庶民向けの本当に素朴なグルメを紹介する番組シリーズが大ヒットしたこともあった。

 

 でも、日本のテレビで、×代目などと紹介されている店をみると、確かにこういう店は中国にないなあと思う。

 そもそも、文革で伝統文化が断絶しているし、今の共産党中国自体が新しい国だ。「先進的」とか「革新的」であることに価値観が置かれ、急速な発展の中で、機転がきいて、てっとりばやく金が稼げるほうに人が流れる。伝統そのものはたいして金にならない。

 

 例えば、代々続く武術家家系の先生を取材していると、息子の代には伝えるのをやめてしまったという話を聞く。

「今の若い世代は、みんな仕事と家庭で忙しい。弟子を取っても同じ状況で、熱心に続けられる人もなかなかいない。伝統武術を伝えていくような時代ではない」

 

 そんなことを話すある三代目の先生に、「では、このまま失われてしまってもしかたがないのだろうか」とたずねると、しばらく沈黙した先生は、「でもどうしたらいいのだろうか」と、問い返した。

 

 おそらくこれは、武術にかぎったことではない。今の中国全体がこんなムードだ。

 ただ、伝統が失われることの残念さより、世代をこえて伝えていく術をもたない社会は、今後どうなるのだろうか、ということを思う。

 

 なぜなら今、何世代にもわたって伝わってきたものは、ただよいからとか、ただ技術レベルが高いからというだけで生き残ってきたわけではなく、時代の中でニーズをとらえ、小さな変化を積み重ねてきたからではないか、と考えるからだ。

 

 中国はスピードがはやく、どんどん新しいものが生まれ、金もじゃんじゃん稼いでいる。でも、その価値観だけで、今の若い世代やその先の世代がやっていけるとは思えない。いずれ転換点を見出すことになるのではないか。

 

 一方、日本も「伝統」があるからといって、それがいかにガイジンに評価されているかという話で悦に入っていては、ただでさえ過去の「遺産」で食いついないでいるところが、ますますじり貧になるだろう。

 世代をこえて伝わるものがある社会をどうつくるかは、わりと大事な課題ではないかと思う。

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