中国在住10年を経て帰国。
中国、という日本とは違った視点で、
日本をあれこれ考えてみる、
日中文化考ブログ by 田中奈美
電車の遅延アナウンスに想うこと

 某日、京王線に乗っていると、緊急信号を受信したとかで、電車が2回急停止した。結局、安全を確認したということですぐに発車したのだが、その後、「緊急停止を2回したために、3分遅れが生じました。ご迷惑をおかけしました」という車内アナウンスが、駅につくたびに繰り返された。

 

 加えてその帰り道、今度は山手線で3分の遅延が出て、やはり駅に着くたびに説明とお詫びのアナウンスが流れていた。

 

 丁寧で誠実といえばそうかもしれないが、なにもそこまでしなくても……と思ったのは、私一人ではないだろう。

 

 また、ある時、都電荒川線に乗ると、運転席近くに「乗務員が体調維持のため、停車中に水分補給を行う場合があります」という張り紙があり、おもわずのけぞったこともあった。

 北京のバスでは、運転手も車掌のおばちゃんも、お茶入りマイボトル持参は当たり前の光景だったので、まさかあえて説明をするようなことであるとは思いもよらなかった。

 

 それにしても、運転手がお茶を飲むことや、たかが3分の遅延におことわりや謝罪が必要だとしたら、そんな社会はずいぶん息苦しそうだ。

 そう考え、はたと思った。

 

 この種のアナウンスに違和感を覚えるのは、単にトゥーマッチというだけでなく、「謝罪するのでお許しください」的な「保身」と表裏一体なところがあるからではないだろうか。

 であるならば、保身という防御において、バカまじめさをさらけ出して謝罪するという戦略がまかり通る日本は、やはりきわめて「いい国」といえるかもしれない。

 

 中国でも近年は謝罪が増えたが、基本的には、攻撃は最大の防御である。

 例えば、去年、北京に行ったときのこと。

 予約したホテルに行くと、ガラス扉の向こうは真っ暗だった。一時的な停電かと思い、ドアをあけると、真っ暗なフロントにいた若いスタッフいわく、「公安からの営業停止を受けたので今日は泊められません」。

 

 そして「かわりに、姉妹店があるので、そちらに案内する」とのこと。ただ、聞けば、かなり遠方の郊外。私はこの場所に用事があって、ここのホテルをとったのだから困ると言えば、「じゃあ、自分でなんとかしてください」。

                                             

 そこからはもういわずもがなのバトルである。こちらが「そっちの都合で泊められないんだから、近隣のホテルに連絡して替わりの部屋を手配すべき」と言えば、「私たちだって公安に言われた被害者。姉妹店に案内するといっているのに勝手を言っているのはそっちのほう」とやり返す。

 

 あとから聞いた話では、実はドミトリーの一室で盗難があり、盗難にあったのがアメリカ人で、1000ドルという大金であったために警察沙汰となったそうだ。それで、店主も責任を問われ、前日から拘留され、スタッフも徹夜で対応に追われていたという。

 

 結局、かなりのすったもんだのすえ、なんのことはない、歩いて数百メートルのところにもう一軒姉妹店があり、そこに一部屋取ってもらうことができた。

 最初からそこに案内しなかったのは、オンシーズンで、私が入ると満室になってしまうので、あけておきたかったようだ。

 

 ホテルの「自分たちも被害者」という言い分は、確かに一理あるのだが、それでもこういうとき、自分は悪くなくてもとりあえず謝る日本式が恋しくなる。

 

 さて、話をもどすと、冒頭の電車の遅延謝罪アナウンス。

 せっかくなので、海外ではおそらくあまりみることができないだろうそれを、東京五輪に向けて、英語と中国語と韓国語でも流したらどうだろうか。

 

 それが海外の人にとって「心地よい」かどうかはわからないが、戦略的にやれば「名物」になるかもしれない。

 そうしたら、3分遅延で謝罪のアナウンスも、もっと楽しいものになるのでは、と妄想するのである。

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